仙台駅旧発車メロディの曲名の真実。「杜の都」はなぜ広まったのか?

 今回は、発車メロディとして名曲と名高いJR仙台駅でかつて使われていた旧発車メロディについて取り上げたいと思います。

仙台駅(引用:Wikipedia)

JR東日本初の発車メロディ導入駅「仙台」

 仙台駅は、実はJR東日本として初めて発車メロディ導入した駅ということは、あまり知られていないかもしれません。新宿駅・渋谷駅が初では?というイメージの方も多いと思います。

 新宿駅・渋谷駅は、1989年3月11日(1989年のダイヤ改正日)に導入されたのに対し、仙台駅は半年前の1988年11月22日に仙石線ホームに導入されたのが始まりとされています。よって、仙台駅はJR東日本初の発車メロディ導入した記念すべき駅なのです。

 しかし、新宿駅・渋谷駅がJR東日本で上位の乗降客数を誇る駅だったことからより多くの人に周知されたこと、JR東日本が仙台駅ではなく新宿駅・渋谷駅のメロディについて新聞や雑誌の取材を受けていたことなどもあって、残念ながら仙台駅が初であったという事実は2000年代になって、ようやく新聞記事から判明することとなります。

仙台駅のメロディ遍歴

仙台駅の発車メロディは大まかに遍歴をたどると、

①1988年11月22日に仙石線ホームにのみメロディを導入。

②1989年3月11日にその他の在来線ホームにもメロディ拡大。

③1989年10月8日には新幹線ホームに別のメロディを導入。

④2000年3月11日に仙石線のあおば通駅延伸に伴い、あおば通駅を仙台在来線と同じメロディでメロディ化し、中間駅になった仙台駅仙石線ホームをベル化。

⑤2016年7月1日に東北の魅力を発信する取組みとして発車メロディがリニューアルされ、在来線は「すずめ踊り」、新幹線は「青葉城恋唄」に変更。

⑥2018年3月18日に在来線ホームのメロディを路線ごとに変え、東北本線・常磐線・仙石東北ラインはHOUND DOGの「ff(フォルティシモ)」、空港アクセス線はMONKEY MAJIKの「Around The World」、仙山線で「すずめ踊り(アレンジ変更)」になり現在に至ります。

仙台駅旧発車メロディを聞いてみる

 さて、今回のテーマとなっている仙台駅旧発車メロディがどんな曲か聞いてみます。なお、仙台駅のメロディは過去から現在に至るまで、仙台市出身の作曲家・榊原光裕氏が手掛けています。まずは在来線ホームです。

引用:(投稿者:海岸3世氏)※当サイトと海岸3世氏は一切関わりはありません。

在来線ホームのメロディは、仙台の情景を歌ったさとう宗幸氏のヒット曲「青葉城恋唄」をベースにし、最後の鐘の連打で発車の合図を表現しています。

次は、新幹線ホームです。

引用:(投稿者:海岸3世氏)※当サイトと海岸3世氏は一切関わりはありません。

新幹線ホームのメロディは、「杜の都」仙台にふさわしく、「緑の風・広瀬川のせせらぎ・ケヤキの緑」をテーマに制作されているそうです。

さて気になる曲名は?

 さて、新幹線の発車メロディを聞いて、「曲名は?」というと知っている人の多く「杜の都」と答えるでしょう。Googleの検索でも予測でヒットしますし、Youtubeでも検索すればかなりの数がヒットします。当然これだけヒットするのですから、「杜の都」で間違いないでしょう。

Googleの検索結果と予測

でも、本当にそうでしょうか?別の視点から見ていこうと思います。

まずは、音楽著作権管理団体であるJASRAC(https://www2.jasrac.or.jp/)のJ-WID(作品データベース)で検索を行います。今回は、著作者名に制作者の「榊原光裕」を入力して検索します。検索結果の画像は、「承諾を得ることなしに無断で複写、複製、転載することは、法律で禁じられています。」とあるので掲載しませんが、検索結果には、「JR東日本仙台駅発車音楽(在来線ホーム)」「JR東日本仙台駅発車音楽(新幹線ホーム)」の2曲が含まれていることでしょう。JASRACの登録において榊原光裕氏に全く断りなく登録されているとは考えられず、榊原光裕氏の意思が反映されている曲名と考えるのが自然でしょう。

さらに、この旧発車メロディの音源が収録された「駅メロ ベストセレクション ~発車メロディ編~」(株式会社スイッチ・SWIT-1006・2014年10月1日発売)Amazon(https://www.amazon.co.jp/%E3%83%99%E3%82%B9%E3%83%88%E3%82%BB%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3-%E7%99%BA%E8%BB%8A%E3%83%A1%E3%83%AD%E3%83%87%E3%82%A3%E7%B7%A8-%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%82%B8%E3%83%8A%E3%83%AB%E9%9F%B3%E6%BA%90-%E5%B1%B1%E6%89%8B%E7%B7%9A%E3%83%BB%E4%B8%AD%E5%A4%AE%E7%B7%9A%E3%83%BB%E4%BA%AC%E6%B5%9C%E6%9D%B1%E5%8C%97%E7%B7%9A%E7%AD%89-Line%E3%83%BBCyuo-Line%E3%83%BBKeihin-Tohoku/dp/B00N1QPEGU)のタイトルリストを見てみます。

駅メロ ベストセレクション ~発車メロディ編~ タイトルリスト(抜粋)

リストには「東北新幹線 駅メロ」「東北本線 駅メロ」と記載されています。このリストは、株式会社スイッチが制作したという点は留意しておかなければならないものの、少なくともそれらしい曲名が付いていれば、その曲名が表記されているはずです。

また、2016年7月1日の変更に対するJR東日本のプレスリリース、榊原光裕氏や音源制作にかかわった仙台フィルハーモニー管弦楽団からも、曲名に関する言及はなされていません。(もし、言及されているという情報をお持ちの方は教えてください。)

つまり、言及もない中ではJASRACの結果を重んずると、テーマが飛躍してつけられた「杜の都」という曲名は正しい曲名ではない。ということになります。

曲名「杜の都」の謎

 では、この「杜の都」という曲名がなぜこれだけ一人歩きをしたのか、私自身なりに考察してみました。

 まず、上記にも書いたこの新幹線ホームのメロディは、「杜の都」仙台にふさわしく、「緑の風・広瀬川のせせらぎ・ケヤキの緑」をテーマに制作。とあります。このテーマであっても曲名ではない「杜の都」が、誤って曲名として認識され広まった可能性が高いと推察します。

 そこで、SNS(mixi・Twitter)で検索を行い、仙台駅発車メロディに関しての「杜の都」の初出を調べてみます。検索結果は、2010年6月頃に一人のつぶやきがあり、2012年7月のYoutubeを引用する形で多数のつぶやきが見られました。(※アカウント削除やつぶやきの削除等で無くなった部分があることを多少考慮する。)

 そして、動画投稿サイト(Youtube・ニコニコ動画)でも同様に検索を行い初出を調べてみます。検索結果は、2007年3月20日の投稿で「杜の都」(自称)と称した動画があり、2010年~2012年にかけて「杜の都」とした動画が立て続けに投稿されていました。(※アカウント削除や動画の削除等で無くなった部分があることを多少考慮する。)

 よってキーとなるポイントは、2010年~2012年の頃のYoutubeであるのが推測できます。

 2010年代頃は、駅メロファンは個人のウェブサイトから、SNSや動画投稿サイトが活動の軸になり始めた頃で、駅メロファンも近年ほど活発な発信をおこなっていない時代でした。そのため、有識者が積極的な訂正の介入が無かったこと。そんな中でYoutubeへの発車メロディの投稿がまだあまり無かった初期の頃に、おそらく一つの動画が起因となり立て続けに広まっていったのではないかと考えられます。

 真偽のほどはわかりませんが、2022年12月にTwitterのとあるユーザーが、「杜の都と名前を付けてYoutubeへ投稿したら広まった」とのつぶやきがなされ、本当であれば、やはりYoutubeの動画がきっかけで定着したのではということが裏付けられました。

ここまで来たら…もう愛称

 ここまで、仙台駅旧発車メロディの曲名に関して深堀してきましたが、これらの曲をたくさんの方が名曲と称え、たくさんの動画が投稿され、ここまで名称が定着した曲もそうは無いでしょう。ただ、勝手に曲名を付けるのは制作者へのリスペクトに欠ける行為にならないかと考えています。そこで、現状は旧新幹線ホーム発車メロディは「JR東日本仙台駅発車音楽(新幹線ホーム)」(愛称:杜の都)とするのが一番の落としどころではないかと考えています。

ソースの乏しい世界

 実は駅メロディ界隈は、今回の「杜の都」のように勝手に誰かが付けた名称が流布しているケースがまだまだあり、東京駅9・10番線ホームの発車メロディは「ドリーム・パーク」が、「東海へ行こう」だったり、成田駅6番線ホームの発車メロディは「旅立ちB」が、「古都の舞妓さん」となっていた時期がありました。

 発車メロディオリジナル楽曲の曲名は、スイッチや音楽館のように積極的に発信してくれる企業を除けば、各鉄道会社がもっているだろうサンプル音源リストのようなところからリークが無い限り、情報を入手するのが難しいのが現状で、突然曲名が出されるとそれがリークなのか勝手に付けたものなのか判断が難しいケースが多いです。これからも同様のケースは起こりうる話ですが、慎重に判断を見極めたいものですね。